とある世界の初めまして。
「おはよう」
ぼんやりと、声が聞こえる。
「ほら、そろそろ起きる時間よ」
「学校遅刻しちゃうわよ?」
ああ、そうだ、早く起きないと…
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ガバッと慌てて起き上がると、そこは森の中。どうやら、まだ夢の中の様だ。夢の中で夢を見るとは何とも不思議な体験だなと思いながら、まだ覚めきらない頭で状況を確認する。
どうやらすっかり朝になっているようで、今日も柔らかい日差しが心地よい。寝ている間に焚き火も消えたかなとそちらに目を向けると、まだパチパチと火の粉を飛ばしている。
「あれ…?」
疑問に思いよく見てみると焚き火を挟んだ反対側、そこに黒に染められた人影が座って居た。瞬間、緊張が走る。山賊などといった類であれば、寝ている間に襲われててもおかしくは無い。となれば自分と同じ様な遭難者か、わざわざ自分が起きるまで待っていた変質者か、はたまた。
そっと腰辺りに手を伸ばす。サバイバルナイフがある事を確認すると、相手を刺激させないように慎重に立ち上がる。相手に動きは無い。視界から外さない様にしながら周囲を伺ってみる。他に気配は、無い。相手も一人のようだ。逃げるか、会話ができる相手なのか。起き抜けの頭をフル回転させていると、不意に人影から話しかけられる。
「お早う。」
x「おはよう…御座います」
一瞬なんの気もない挨拶に気が緩むが、慌てて警戒体制を取り直す。まだ話の通じる相手だと決まった訳ではない。一息ついて人影が立ち上がる。顔が見えた。短い黒髪にキツイ吊り目の赤い瞳。その格好は見ればなお真っ黒で、頭に今はあまり見かけなくなった学生帽を被り、裾の破けた黒いマントを羽織っている。背丈は自分より高く、声からして男性である事は間違いないだろう。
その事実にゾッとする。寝込みを襲われずに良かったと言うべきなのか、これから起こる事に注意すべきなのか。寝起きの頭ではキャパオーバーだったのか、何もできずに固まっていると、人影が言った。
「御前、ここの者じゃ無いだろう」
「…はぁ」
「安心しろ。俺は御前に手を出すつもりは無い」
そんな事を言われても、だ。こんな状況で初対面の人間、それも男性に言われて素直に安心できる訳がない。だが、ひとまず相手に会話をする意思がある様に思えたのと、どうやらこの辺りに詳しい様なので、一応逃げ道は考えながら話を聞いてみることにする。
「あなたは何で私を見てた……んですか?」
「簡単に言えば此の辺りの見廻りをしている。時々、御前の様な奴が居るのでな」
「はぁ」
「まあ、御前は保護せずともこの森生活出来そうであるし、何よりこの森での暮らしが合っていそうだな」
「そう…ですか」
まずい、話について行けない。何処と無く言い回しが古いせいか、聞き取りづらいところが所々ある。どうやら、私みたいな人が時々いるらしい事と、何かをしてくる気は無さそうだという事だ。…多分。
「御前が望むなら、この森に丁度空き家がある。其処に住むと良い。其処まで案内してやろう。」
うーむ。どうやら家に案内されるみたい。明らかに不審だ。だけど、思い出せばここは夢の中。ある程度の事なら夢のパワーでどうにかなるはず…だ。何より、好奇心がうずきだしてきた。私はその提案に乗ることにする。
「わかりました、お願いします」
「そうか、了解した」
二つ返事で男性は森の奥へと足を向ける。慌てて置きっぱなしの物がないか見渡してから、遅れて私もついていく。焚き火の火はいつの間にか消えていた。
慣れた様子で森の中を歩いていくその人に、私はちょっと質問をしてみることにした。
「名前、なんて言うんですか?」
「百怒夏樹だ」
「どどなつき…さんは、どうしてこんなお仕事を?」
「そういう職務内容だから、だ」
「森の中、だいぶ広そうですし、見て回るの大変じゃないですか?」
「慣れればそうでもない」
イマイチ会話が弾まない。まるで機械とお喋りしているみたいに、相手の感情がよくわからない。どうしたものかと考えていると、バサバサと鳥の飛び立つ音が聞こえてくる。何となくそちらの方に目を向けると、空は所々ズレた様な、ゲームでいうバグった状態の様になっている箇所がある。それが移動していく。不可解な光景に呆然としていると、足を止めた事に気がついた夏樹がこちらに声をかけてきた。
「どうした?」
「空が…ズレてます」
「ああ、瑠璃烏か」
「何、ですかそれ」
気になる。とても気になる。
「身体と羽が瑠璃がらすの様に透明な烏でな、あの様に集団で空を飛ぶと、光が屈折されて空がズレた様に見える」
「ほへぇ…」
やはり夢の中だからだろうか、現実にはいない面白い生き物もいるみたいだ。面白い。
「余り集まり過ぎるとれんずの様になってな、日の光が集まって火事の原因になる。だから基本的にはああやって少数の群れで狩りをする」
「面白いですね!」
「……空き家は直ぐ其処だ、行くぞ」
そう言ってスタスタと歩いていってしまう。ちょっとくらいノッてくれてもいいじゃないかこのお仕事マシーンめ、と思いながら、また歩きだすのであった。
暫くして、少し開けた場所に出た。そこには所々蜘蛛の巣を引っ掛けて、少し薄汚れた様な、明らかに人が住んでいるとは言えない雰囲気を漂わせた小さなログハウスが建っていた。
「空き家って……これですか?」
「嗚呼、そうだ。案内はこれで良いな?」
「いやいやいや!ちょっと待ってくださいよ!!」
帰ろうとする夏樹を慌てて引き止める。
「む……どうした、まだ何かあるのか?」
「まだ中の確認してないですよね!これで中になんにもなくてまともに住めないようでしたら、案内された意味無いじゃないですか」
「むう……」
それほど信用ならんのか、とでも言いたげな顔をされる。個人的には天井と壁があって雨風がしのげれば大満足なので、ただの話の口実に過ぎないのだが、夏樹にはまだまだ聞きたい事が山のようにある。この森の事、さっきの鳥の事、夏樹自身の事、この世界の事。せっかく珍しい体験が出来ているのだ。できる事、知れる事は存分にやって、知ってみたい。
「……わかった、管理はしてあるから一応住居として使えない筈はないと思うが、確認しようか」
「ありがとうございます!」
了承を得られたので、逃すまいとすぐにドアに近づき取っ手に手をかける。ガチャッと取っ手を下ろしてから引くと、ギギィと重たい音を立ててドアが開いた。
中はこじんまりとしたワンルームになっているようで、軽くホコリが積もっているようではあるが、ベッド、テーブル、本棚など、家具は一通り揃っているようだ。その中で何よりも入口の正面、部屋のど真ん中に置かれたレンガ組の暖炉がワクワク感を際立たせる。
ウロウロと部屋の中を見て回りながら、夏樹に話しかける。
「案外しっかりしてますね」
「まあ、週に一度は見に来ているからな。使えないものは無いだろう。水は水道を引いてある。厠は外に個室があるからそれを使ってくれ」
おお、割と近代的。流石に電気は無いみたいだけどなかなかに快適な暮らしが出来そうで、私楽しみであります。
「食事は…御前なら何とでもなりそうだが、少し離れたところに畑がある。そこで何か栽培しても良いだろう。肉や魚は、望むのであれば狩りの道具があるからそれを使え。使い方が分からん様であれば教えてやろう」
「はい!そりゃもうぜひ教えて下さい!」
若干食い気味に、大きな声で答える。夏樹は意外だったのか少し驚いたような顔をしたが、すぐに元の仏頂面に戻った。
「了解した。一先ず設備の案内から始めようか」
「了解です隊長!」
「何だそれは……」
軽いジョークを挟みつつ、外に向かう。そうして、私のちょっと変わった夢の中での生活が始まった。
あとがきなど
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